確かに安定したバス移動を放棄したのは俺だ。
確かに多少のハプニングを少し期待してこの船に乗り込んだのも事実だ。
ただ、歯はねーだろー
と言いたい。
「大変だね」ってなるべくたくさんの人に同情してほしい。
しかし、周りにいるのは生粋の地元民である。
完全にスペイン語オンリーなので、俺にはそれを伝える能力は全くない。
くそ、形だけでも同情して欲しいのに…
(他人の虫歯ってそんなもんだよね)
こんな時は…酒だ!
隠し持っていたウイスキーの小瓶を片手にお気に入りのデッキへ。
しばらく夜風に当たりながらチビチビやっていると船が減速しだした。
どうやらまた村に立ち寄るようだ。
すると遠くに今までにはない大きさの船が見える。
む?
そして着岸してみると、なんと兄貴のヘンリー2号ではないか。
兄ちゃんだけあってこちらよりひと回りデカい。
船は隣り合って停泊し、お互いの乗客がデッキに乗り出したり窓から顔を出したりしてよくわからないご挨拶。
手を振ったり写真なんかも撮り合っていてなんか微笑ましい。
こんなにたくさん。つまりみんな暇なんです
感動の再会が終わると、船はいつもどおりのだらけた日常風景に。
そして俺は明日は腫れが引いてますようにと願いながら、これまた日常となったハンモック上での睡眠に入るのであった。
翌日
腫れは変わらず。
むむむ…
ひどくはなってないのでまあ良しと考えるべきか?
とにかく今俺に出来ることと言えば、茶色い水でうがいした後にミネラルウオーターで再度とどめのうがいをすることぐらいである。
船はここら辺から乗客が少し減り始め、船内に少し余裕ができてくる。
同時に、あと2泊すれば到着するという安堵と寂しさが交じった複雑な気分になってくる。
途中で寄港した集落①
途中で寄港した集落②
この船ではそれなりに偉いっぽいおっさん。携帯の充電をさせてくれた
船首の貨物に勝手に乗ってくつろぐ相変わらず自由気ままなジル
ちなみにこの船は小さな子供が多いのだが、乗っているペルー人のお母さん方、体型も言動もメシの食い方も(手で食べたりする)とても豪快である。
みんな肝っ玉母ちゃんだ。
最近隣人になった家族の20代中盤と思われるお母さんなどは、兄弟の兄貴のブライアン君(やんちゃ坊主でよく弟を叩いたりして遊んでいる)を「ブライアン! ブライアン! ブライアン!」などと叱りつけている。
しかしこのブライアン君、全く素行を改めないので四六時中お叱りの声が横で響いているのである。
そして弟のジミー君はいつも「マミー! マミー!」と泣いていた。
肝っ玉母ちゃんとその母ちゃん。「お腹が出てるように映ってるじゃない! ギャハハ」ですと。
謎の果物をくれたりスペイン語を教えてくれたりと実はすげーいい人たち。
逆のお隣さん。こちらは母娘らしく比較的お上品
夜、またもウイスキーの小瓶を片手に後方デッキでタバコを吸っていたら、ガキンチョ達がまわりでギャーギャー騒いでいる。
何かと思ったら数匹のゴキブリを蹴ったりして遊んでいるではないか!
冷や汗をかいて思わずのけぞる。
おおぅ!! こっちに蹴っ飛ばすな💦
そして動かなくなったゴキちゃんは手で捕まえて川にポイッ
さらに女の子にゴキを背中に入れられた男の子は、一瞬硬直した後に号泣しだして「マミー! マミー!」とお母さんのもとへ。
…何なのこれ?
そんなんされたら俺でも号泣するわ。
大人たちは存在すら気にしていない。
ホントみんなたくましい。
虫嫌いと潔癖症な人はこの船に乗ると改善されるでしょう。
(ただし一部の人は発狂します)
そして今夜、さすがに退屈に飽きたのかダメな男どものトランプによる賭場が開かれる。
金を賭けて目は真剣そのものだ。
ひとりは船内にも関わらずタバコを吸いだしちゃってるおやじも。
そりゃさすがにダメだろ!
しばらく眺めた後、再度酒を飲みにデッキへ。
すると二人組のおっさんがタバコを吸いながら話し込んでいたのでウイスキーを進めてみたところ、急遽酒宴が開催。
会話がほぼ全く通じていないのに妙に盛り上がった不思議な交流であった。
みんなストレートでガンガン飲みました
気分も良く、歯茎の腫れも気にならなくなり(そりゃそうだ)明日起きたら治ってそうな確信すらある。
気持ちよく爆睡。
翌朝
全く治ってねー
ちょっとひどくなったか? いや、変わらずか?
とにかくいよいよ治療を検討せねばならない気がする。
明日で下船。
食事もあと数回を残すのみである。
食料置き場を見に行ってみると
鶏がきれいさっぱりいなくなりました
そして犬もいねー… いるのは乗客の手荷物である鶏だけ
最後の夜、最上階デッキに上がって見上げるとそこは満天の星空だ。
ひとりで感動しながらまた飲んでいると、ハゲたおっさんがこちらに来て声をかけてきた。
なぜかたまーに肩を叩きながら声をかけてきたおっさんだ。
酔っているのかフラフラ近づいてきて、また肩を叩いて「元気か?」と声をかけて船長室へ。
…あんた船長さんだったの?
この適当さと大自然、そして人の良さ。
ペルー気に入った。
翌朝、船はついにイキトス港へ。
ヘンリー号の兄弟もたくさん
乗船してから6日、出航してから5日かけて目的地に到着である。
隣人たちにも愛着が沸き、降りる時は何とも寂しいもんです。
そして下船。
改めて見るとものすごい着岸の仕方してる…
結局歯の改善は全くないままジャングル都市に到着してしまった。
さあこれからどうする